この記事は現役の弁理士が書いています。
20代後半で特許事務所に就職し、30代前半で企業の知財部に転職しました。
転職組の同僚を何人も見てきましたし、採用担当からの話もいろいろと聞いています。
そこから得た結論は、弁理士の就職難は嘘、むしろ不足しています。
しかし、現実に就職活動がうまくいっていない弁理士もいるようです。
どうすれば弁理士が楽に就職できるのか?コツを紹介していきます。
弁理士の就職先は主に3つ
弁理士の就職先は主に次の3つです。
特許事務所
弁理士の就職先で最も多いのが特許事務所です。
約70%の弁理士が特許事務所に所属しています(経営者も含む)。
特許事務所での業務は、特許出願などの書類作成が中心です。
このような知財に関する代理業務は弁理士の独占業務ですので、特許事務所は弁理士資格を活かせる職場と言えます。
逆に弁理士資格を持っていない所員たちは、資格取得を目指して日々勉強しています。
他の就職先と比べた特許事務所の特徴は、
- 就職難易度は低め
- 個人プレーの要素が強い
- 成果主義・実力主義の職場が多い
- 勤務規則が緩い
といった感じです。
企業の知財部
弁理士の約20%は、企業の知財部に勤める企業内弁理士です。
近年、弁理士の安定志向が強くなったためか、企業内弁理士の数は増加傾向にあります。
知財部の特徴は、
- 就職難易度は高め
- 年収は安定しているが、上限がだいたい決まっている
- 個人作業もあるが、社内外の人と協力進めていく仕事も多い
なお、知財部員には弁理士資格は必須ではありませんが、いろいろとメリットはあります。
メリットについて詳しくは下記の記事で解説しています。
法律事務所
法律事務所に勤務する弁理士は少なく、全体の1%未満です。
法律事務所には弁護士が所属しており、弁護士と協力して知財訴訟を担当する機会を得やすいのが特徴です。
ただし、日常業務は特許事務所と同様に書類作成業務が中心となります。
弁理士の就職難易度を決める要素
弁理士が就職するために何が必要なのでしょうか?
私が就職活動した経験や人事担当者から聞いた話を分析して、いくつか重要な要素があると分かりました。
知財経験
知財経験とは、特許事務所、知財部などで知財業務を行った経験のことです。
このページの読者の方は知財未経験が多いはずなので、がっかりしてしまったかもしれません。
しかし、心配する必要はありません。最初は誰でも未経験です。
知財経験がないなら未経験可の求人に応募しましょう。
知財経験が必須要件となっている求人は即戦力を求めています。
知財以外の経験や能力、やる気で未経験をカバーするのは難しいので、経験必須の求人には無理に応募しないのが賢明です。
年齢
年齢は若いほど有利ですが、明確な基準がある訳ではありません。
経歴などの他の要素にも依存しますし、募集しているポジションにもよります。
年齢別に就活での評価をまとめると、以下のようになります。
ただし、あくまで目安であり、応募先・採用担当によって評価が左右されることに注意してください。
20代~30代前半
知財業界では20代~30代前半は若手です。
メーカー研究職からアラサーで転職してくる人が多数派だからです。
この年齢層なら知財未経験でも問題なし、むしろ普通です。
30代後半~40代前半
30代後半~40代前半の転職者も普通にいます。
知財経験が欲しいところですが、未経験でも弁理士資格や職務経歴で十分戦えます。
例えば、自動車部品の設計者だったのなら機械メーカーの知財部、または機械メーカーからの仕事がある特許事務所に応募すると有利です。
未経験の人は就職してから覚えることが多いので、勉強する姿勢を採用面接でアピールするのがよいでしょう。
40代後半以降
40代後半以降になると、基本的にはそれなりに知財経験を積んでいることが条件となります。
厳しい言い方になってしまいますが、未経験の方が転職を成功させるには相当の戦術が必要です。
例えば、
- 特許事務所(就職難易度が低い)に絞る
- 自動車部品の設計者の場合は、自動車メーカーからの仕事がある特許事務所だけに絞る
- 英語が得意な場合は、特許翻訳者としての就職を狙う
といった戦術が考えられます。
理系 or 文系
弁理士は8割近くが理系であり、特許業務では理系知識が武器になります。
しかし、文系弁理士が活躍できない訳ではありません。
意匠、商標業務は文理関係なくこなせますし、文系出身でも特許業務を担当している人を知っています。
「文系だけど特許の仕事がしたい」という人におすすめの技術分野は機械です。
理由は、電気・制御・化学など他の分野よりも発明の原理を直感的に理解しやすいからです。
英語力
知財業界において英語力の重要度は年々増しています。
日本では国内出願が減少傾向、外国出願が増加傾向にあるからです。
外国出願を取り扱うには、現地の特許事務所とのやり取りに英語力が必要です。
応募先のポジションにもよりますが、TOEICの点数で言えばアピールできるのは650点以上くらいでしょう。
なお、英語以外の言語であっても就活にはプラスです。
実際にその言語を使わないポジションだとしても、外国語を習得した実績が評価に値するからです。
研究開発経験
知財部・特許事務所のどちらに就職してもエンジニア(=発明者)とやり取りをする機会が頻繁にあります。
研究開発経験があると、研究開発の基本的な流れ、図面の読み方などの知識が役に立ちます。
さらに技術分野がマッチしていれば、かなり評価が高くなるでしょう。
性格(パーソナリティ)
知財業界に限ったことではありませんが、スペックだけでなく性格も判断されます。
私の経験上、採用面接では次の3点を意識して、よい印象を与えるようにするとうまくいきます。
向上心
弁理士資格を持っていたとしても、担当する技術の知識、業務フロー、社内用語など入社後に勉強することはたくさんあります。
資格を持っている人ほど謙虚に学ぶ姿勢を見せるのがよいでしょう。
積極性
積極性はどの職場でも重要です。
例えば、特許事務所勤務の場合、
- 発明者に積極的に質問して話を引き出す
- 言われたとおり原稿を作るだけでなく、積極的に提案を行う
といったことが求められます。
知財部でも、
- 誰かが持ってきた発明に対応するだけでなく、自ら発明を発掘しに行く
- 知財戦略に基づいて開発方針の提案を行う
のように積極性が必要です。
なお、私の失敗談ですが、採用面接のときに「海外赴任の制度があるけど、行ってみたい?」と聞かれ、渋ってしまいました。
結果、その会社では積極性なしと判断され、不採用でした(理由は転職エージェントからのフィードバックで分かりました)。
協調性
特許事務所でも知財部でも少人数の職場が多く、その中で他のメンバーとうまくやっていけそうかが判断されます。
専門職ですので、別部署への異動が難しく、よい人間関係を維持していくのが大事になってきます。
逆に自分に協調性があっても職場の雰囲気が悪いとどうしようもありませんから、雰囲気のよい職場かをこちらでも見極めるようにしてください。
弁理士が就職・転職を成功させるコツ4選
就職活動に不安がある方、うまくいっていない方のために、就職を成功させる4つのコツを紹介します。
募集要項をよく読む
募集要項を読むなんて当たり前のようですが、応募条件を満たしていない人からの応募が実際にあるそうです。
募集対象は、将来活躍できる新人、即戦力の人材など求人ごとに様々です。
求人の意図を読み取り、自身に合った求人に応募しましょう。
ただ、 応募要件を満たしていない求人に応募したいこともあると思います。
その場合、満たしていない条件の埋め合わせとなる強みをアピールすることが必要です。
例えば「業務経験年数が少し足りないが、発明者として〇件の特許出願した経験がある」などです。
応募条件を完全に無視してしまうと、読解力がないと判断されて致命的なので注意してください。
応募しまくる
よい職場に巡り合うには、それなりに数を当たる必要があります。
気が進まない求人でも面接を受けて印象が変わるかもしれませんし、場数を踏んで様々な情報が得られるというメリットもあります。
TOEICを受けてみる
時間に余裕があるのならTOEICを受けてみるのも効果的です。
TOEICは出題傾向がはっきりしていて、2~3か月程度の対策でも点数が伸びていきます。
特に自分のスペックに不安がある方が戦闘力を底上げするのに最適です。
転職エージェントを利用する
自分だけで活動するよりも転職エージェントを利用するのがおすすめです。
- 非公開求人に応募できる
- 直接聞きにくい質問などを代行してもらえる
- 面接の日程調整をしてもらえる
- フィードバックを受けられる
といったメリットがあります。
おすすめの転職エージェントはリーガルジョブボード (登録無料)です。
リーガルジョブボードは、法律系専門職に特化しているサービスで、弁理士の求人を多数扱っています。
転職前に弁理士資格を取るべき?→基本、後回しでOK
「転職と弁理士資格取得のどちらが先?」と悩んでいる方は多いのではないでしょうか?
結論として、基本的には転職が先でよいと思います。
知財業界に飛び込む覚悟があるのなら、早く転職活動した方が年齢的に有利だからです。
ただし、知財をよく知ってから進路を決めたい、弁理士資格がないと就活で戦えそうにない、といった事情があるのなら資格取得を優先させるのもありでしょう。
コメント