「弁理士の付記試験は受けた方がいいの?」
「付記試験を受けようかどうか迷っている・・」
そんな疑問・悩みをお持ちの方。
このページでは、付記試験のメリットとデメリットを考察し、どんな人が付記試験を受けた方がよいか解説します。
これを読めば、あなたが付記試験を受けるべきかどうか分かるようになります。
付記試験とは?
付記試験(特定侵害訴訟代理業務試験)は、特定侵害訴訟に関する知識と実務能力を測る試験です。
この特定侵害訴訟とは、特許などの侵害訴訟や、特定不正競争による営業上の利益の侵害訴訟のことを言います。
付記試験に合格すると、特定訴訟を弁護士と共同受任して、裁判所に共同出廷する資格が得られます。
付記試験を受けるメリット

侵害訴訟の場で活躍できる
普通の弁理士は侵害訴訟で表舞台に立てませんが、付記弁理士になれば弁護士とタッグを組んで活躍することができます。
権利化業務に偏りがちな弁理士が多い中、仕事の幅が広がるのが最大のメリットです。
勉強する過程で知識が身に付く
付記試験に合格するには、民法・民事訴訟法を詳しく勉強する必要があります。
詳細は後述しますが、付記資格を取得するには試験だけでなく、講義の受講やレポートの作成が必要となります。
その過程で効果的に知識が身に付くのがメリットです。
付記試験を受けなくても勉強自体はできますが、明確な目的意識を持つことで学習効果が高まるでしょう。
顧客へのアピールになる
付記登録した弁理士は名刺に「特定侵害訴訟代理業務付記」と記載することができます。
訴訟代理の仕事がある環境ではもちろん、出願を依頼してくるクライアントに対しても付記登録はアピールになります。
特許を取った後に訴訟に至るケースは少ないですが、それでも訴訟まで想定して権利化を進めることが大切だからです。
また、弁理士という資格に満足することなく、地道に努力を続けられる姿勢のアピールにもなります。
付記試験を受けるデメリット



当然ながら付記試験にはメリットばかりではなく、デメリットもあります。
費用・時間がかかる
付記登録するまでにはかかる費用は以下のとおりそれなりに高額です。
能力担保研修 | 200,000円 |
受験手数料 | 7,200円 |
申請手数料 | 8,000円 |
また、費用だけでなく、時間もかかります。
まず、受験資格を満たすために能力担保研修で45時間の講義を受け、課題を提出する必要があります。
さらに試験勉強の時間も確保しなければなりません。
弁理士試験でお金と時間を費やして、さらに付記のために必要となれば躊躇してしまう人は多いかもしれません。
資格を活用する機会がないかもしれない
付記弁理士の数に対して訴訟件数が少ないのも問題です。
2022年9月時点で付記弁理士の人数が4,435名であるのに対し、知財訴訟が何件あるのか調べてみました。
下記は、全国地裁第一審における知財関係民事事件の新受・既済件数の推移です。
新受(件) | 既済(件) | |
平成29年 | 700 | 566 |
平成30年 | 495 | 532 |
平成1年 | 511 | 549 |
平成2年 | 493 | 420 |
平成3年 | 611 | 524 |
単純計算で4,435人の付記弁理士が年間数百件の仕事を分け合っていることになります。
つまり、一人当たり年間1件もありません。
しかも経験を積んだ付記弁理士に仕事が集中することを考えると、付記登録しただけで事件を受任することはできないでしょう。
知財訴訟を扱っている法律事務所に所属するなど職場環境が整っていないと、せっかく取った資格を活用できないおそれがあります。
付記試験を受けるべき人は?



訴訟を担当できる環境にある人
権利化業務ばかり扱う職場で訴訟案件が回ってこないのは上述したとおりです。
一方、訴訟案件を担当できる職場にいま所属している、又は将来的にそのような職場に転職できる場合は、付記試験を受ける価値はあると言えます。
学習効果を確かめたい人
付記試験に必要な勉強自体は、弁理士会や日本知的財産協会などが主催するセミナー、書籍等を利用して行うことは可能です。
しかし、独学では系統立てて勉強することが難しかったり、知識が身に付いているかどうか分かりにくかったりします。
付記試験であれば、強制力のある環境で勉強することで確実に知識を習得し、試験で学習効果を確認することができます。
仕事に役立つ/立たないに関係なく勉強したいという向学心のある方は、付記試験の受験について一考の余地があります。
ステータスが欲しい人
業務・勉強のためではなく、付記弁理士というステータスを目的にする人も一定数います。
ステータスのためと割り切るのもひとつの選択ではあります。
ただし、その目的のために付記試験が本当に一番有効なのかは検討した方がよいように思います。
付記試験を受ける代わりに、その他の資格、語学力、実務経験などを得ることができるかもしれません。
付記試験以外の選択肢と比較して付記試験が有効と確信できるなら、その選択はありだと思います。






付記弁理士になるには?
弁理士資格を持った人が付記弁理士になるには以下の4ステップが必要です。
- 民法・民事訴訟法の基礎知識の習得
- 能力担保研修の修了
- 付記試験の合格
- 付記申請書の提出
各ステップの詳細を説明していきます。
民法・民事訴訟法の基礎知識の習得
能力担保研修の受講条件として、民法・民事訴訟法の基礎知識の習得が求められます。
具体的には次の3つの手段のいずれかによって履修しなければなりません。
(1)研修所による「民法・民事訴訟法に関する基礎研修」(eラーニング)を受講
(2)研修所が過去に販売した「民法・民事訴訟法に関する基礎研修」のDVDを視聴
(3)大学、専門学校等で民法・民事訴訟法の知識を習得
多くの人には(1)の方法が最も容易だと思います。
能力担保研修
能力担保研修は、東京・大阪・名古屋・札幌のいずれかで受講するいわゆる集合研修です。
会場に通う必要があり、しかも欠席は許されませんので、事前に日本弁理士会ウェブサイトでスケジュールを確認しておきましょう。
講義は合計で45時間(1.5時間×30コマ)あります。
講義後には複数回の課題の提出が求められますので、課題作成の時間を確保できることも確認しておいてください。
付記試験
付記試験の基本情報
受験資格 | 日本弁理士会が実施する能力担保研修の課程を修了した弁理士 |
試験の時期 | 10月中旬から12月下旬の土曜日又は日曜日のいずれかに、1日間で実施 |
受験地 | 東京、大阪 |
受験手数料 | 7,200円(特許印紙にて納付) |
試験公告 | 例年6月から8月頃 |
引用元:特許庁「特定侵害訴訟代理業務試験の案内」
付記試験の合格率・難易度
付記試験の合格率は近年50%くらいを推移しています。
平成29年 | 49.7% |
平成30年 | 52.0% |
令和元年 | 71.7% |
令和2年 | 55.4% |
令和3年 | 47.8% |
弁理士試験の合格率は数%~10%程度ですので、付記試験の方が遥かに高い合格率です。
受験層を考慮すると、安易に合格率を比較して難易度を測ることはできませんが、付記試験は弁理士試験ほど難しくはないというのが受験者の間の実感です。
付記試験の過去問
付記試験の過去問は、特許庁ウェブサイトから入手可能です。
付記申請書の提出
付記試験に合格した後、付記申請書を日本弁理士会会長宛に提出し、手数料8,000円を納めれば全ての手続きが完了です。