「特許事務所の仕事に興味がある」
「転職サイトの記事を読んだけど、経験者の生の声も聞きたい」
という方。
特許事務所の勤務歴5年の弁理士が特許事務所の実情を詳しく説明します。
この記事を読むと、特許事務所で自分がやりたい仕事をできるのかが分かります。
特許事務所の仕事内容
特許事務所では、クライアントを代理して知財に関する業務を行います。
知財は特許・実用新案(小発明)・意匠(デザイン)・商標が含まれますが、ここでは頻度の高い特許を中心に解説していきます。
特許事務所のクライアントは機械メーカー、電器メーカー、化学メーカー・・など技術分野は様々です。
特許事務所の所員は、1人のクライアントの専任の場合もありますが、複数のクライアントの業務を担当することの方が多いです。
それでは、業務をひとつずつ見ていきましょう。
特許事務所が行う業務
出願業務
特許事務所での業務の中心となるのが出願業務です。
出願業務は、クライアントが取得したい特許の出願書類を特許庁に提出する業務です。
具体的には次の4つのステップで行います。
①発明内容をヒアリングする(1~2時間くらい)
特許出願する発明の内容を発明者から聞き出します。
発明者はクライアント(会社)に所属しているエンジニアです。
こちらから相手の会社に出向いて打ち合わせをするのが一般的ですが、コロナ以降はウェブ会議の利用が増えてきました。
打ち合わせには会社の知財部員も出席し、出願方針の説明を受けます。
出願方針に基づいてどのような特許を取得するのか、どのように出願書類を書くのかを三者で決定します。
②出願書類を作成する(20~40時間くらい)
打ち合わせを終えると、自分のデスクで出願書類の作成に取り掛かります。
この作業に最も時間がかかり、1日では終わりません。
1件当たりの文章量はまちまちですが、典型的には50文字×40行が20ページとして4万文字といったところでしょう。
ひたすらタイピングする個人作業が続きますので、好みが分かれるかもしれません。
出願書類が完成したら、クライアントに送付して一段落です。
③出願書類を修正する(1~5時間くらい)
原稿の送付後、クライアントから修正依頼が届きます。
完璧に思えた原稿でも修正しなければならないことがほとんどです。
指摘された修正を反映して第2稿をクライアントに送付します。
以下、同じやり取りを繰り返して原稿をブラッシュアップしていきます。
修正の回数は原稿の質やクライアントの要求の高さなどによって変わってきます。
④出願書類を提出する
完成した原稿を特許庁に提出します。
ただし、実際の提出作業は事務員が行うのが普通ですので、担当者は間違いなく手続きできたかをチェックする程度です。
拒絶理由通知への対応
前の項目で苦労して出願を完了しましたが、残何ながら希望通りに特許がすぐに登録されることは少ないです。
出願後、拒絶理由通知という書類が特許庁から届きます。
拒絶理由通知は、出願が拒絶理由に該当するため登録できないことを知らせる通知です。
特許を取得するには拒絶理由を解消しなくてはなりません。
拒絶理由通知を解消するための手続きは具体的には次のとおりです。
①拒絶理由を分析して、対応策をクライアントに提案する
②クライアントから応答指示を受ける
③応答指示に従って応答書案を作成してクライアントに送る
④クライアントから修正依頼をあった場合には応答書案を修正する
⑤完成した応答書を特許庁に提出する
クライアントの希望によっては①のステップが省かれることがあります。
拒絶理由通知への対応は、出願業務に次いで頻度の高い仕事です。
先行技術調査
先行技術調査は、特許出願する前に、対象となる発明と同じか類似した技術文献がすでにないかをチェックする調査です。
特許を取得するには発明の新しさが要求されるため、先行技術調査が必要となります。
つまり、先行技術調査で近い技術文献が見つかれば特許を取得するのが難しいと分かります。
反対に近い文献が見つからなければ特許を取得できる可能性があると言えます。
特許を取得できそうと分かれば、その流れで出願依頼を受けることになります。
なお、先行技術調査は個人発明家や中小企業のクライアントから依頼されることが多いです。
大企業では社内で先行技術調査を行うのが普通だからです。
鑑定
鑑定は、登録済み特許に関する評価を行うことです。
鑑定を分類すると、
- クライアントが他社の特許を侵害していないかの鑑定
- 他社がクライアントの特許を侵害していないかの鑑定
- クライアントまたは他社の特許が無効ではないかの鑑定
があります。
鑑定の依頼頻度は高くなく、担当しているクライアントにもよりますが、1年に1回あるかないか程度です。
異議申立て・無効審判
異議申し立て・無効審判は、特許の取り消しや無効を請求する手続きです。
頻度はそれほど高くはありませんが、クライアントのビジネスへの影響が大きい重要な仕事です。
異議申し立て・無効審判の依頼は次の2通りに分かれます。
- クライアントが他社の特許を無効にしたい(攻撃をしかける)場合
クライアントがビジネス上の障害になる他社の特許を無効にしたいパターンです。
必要な手続きは、特許を無効にすべき理由を記載した所定書類の提出です。
特許を無効にできる根拠を探して、論理を組み立てて書類を作成していきます。
一度登録された特許を無効に導くには、説得力の高さが要求されます。
- 他社がクライアントの特許の無効にしようとしてきた(攻撃をしかけられた)場合
逆に異議申し立て・無効審判をかけられたパターンです。
相手の攻撃に対抗する書類を作成し、提出することになります。
相手は本気で特許を潰しに来ますので、こちらも丁寧に対応する必要があります。
侵害訴訟
侵害訴訟の仕事には、
- クライアントの特許を侵害した他社を訴える場合
- クライアントが他社から特許侵害だと訴えられた場合
の2通りがあります。
基本的には書面でのやり取りによって、相手方と侵害の有無を争うことになります。
なお、侵害訴訟はたとえ弁理士であっても単独で代理することはできず、弁護士と共同で手続きをしなければなりません。
営業
特許事務所の経営者には営業活動が当然必要ですが、平の所員であっても営業の感覚を持っていた方がよいです。
クライアントにサービスの質とスピードをアピールすることで仕事を依頼してもらえるからです。
逆によいサービスを提供できないと依頼が減ってしまいます。
特許事務所の所員は個人の力を高めていくことが重要であり、この点が組織への帰属意識が強い会社員とは異なます。
まとめ
特許事務所の業務を知って「色々な業務があるんだな」と思いましたか?
しかし、現実の業務は9割以上が「出願業務」と「拒絶理由通知への対応」です。
この2つの業務経験を積んで権利化のエキスパートになれば、特許事務所でうまくやって行くことができるでしょう。
特許事務所の所員に必要な知識・スキル
知財法の知識
特許庁への提出書類を作成するために知財法の知識は必須です。
誰よりも詳しくなるくらいの意気込みで勉強しましょう。
特許事務所にいるのであれば、弁理士資格の取得はほとんど強制です。
弁理士になる方法を知りたい方は下記の記事をどうぞ。
技術理解力
特許事務所では様々な技術分野の仕事に割り当てられる可能性があります。
科学知識も武器にはなりますが、それよりも大事なのは技術理解力です。
専門外の分野も受け入れる姿勢で業務に取り組んでいけば、技術理解力を伸ばすことができます。
文章力
特許事務所の所員は、毎日大量の文章を書いています。
技術文書・法律文書として誤解のない明確な文章を書かなければなりません。
不明確な文章を書いてしまうと、特許庁から拒絶理由を受けてしまったり、無用な争いを起こしてしまったりするからです。
また、ここで言う文章力には、書き続けることができる能力も含まれます。
英語力
近年、産業のグローバル化が進み、日本国内の出願は減少傾向、外国への出願が増加しています。
利益が大きい仕事は国内よりも外国出願です。
外国出願を担当するには英語力がある程度(英検2級、TOIEC600点程度)必要です。
特許事務所に就職・転職するには?
新卒で特許事務所に就職する場合
新卒で特許事務所に就職する方法は、
- マイナビ・リクナビなどから応募する
- 特許事務所のウェブサイトから応募する
の2つがあります。
詳しくは下記の記事をどうぞ。
特許事務所に転職する場合
私の経験から言って、特許事務所への転職は一般の会社への転職よりも容易です。
転職する方法は
- パテントサロンの求人スクエアから応募する
- 特許事務所のウェブサイトから応募する
- 転職エージェントを利用する
の3通りあります。
よい求人に出会うためにはこれらの方法を併用するのがよいでしょう。
特に転職エージェントには非公開求人にも応募できるなどのメリットがあります。
おすすめの転職エージェントは、法律系専門職に特化したリーガルジョブボード(登録無料)です。
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