この記事は、グローバル企業の知財部で働く弁理士が書いています。
以前、国際特許事務所に勤めていました。
「弁理士にはどの程度の英語力が必要?」
「英語を使ってどんな業務をするのか知りたい」
「どうしても英語が苦手なので、避けたい」
と思っている方は必見です。
弁理士と英語に関する疑問に全てお答えします。
弁理士に必要な英語力
先に結論から言いますと、新人の弁理士は高卒レベルで十分です。
目安としてはTOEICのスコア600~650、英検2級です。
このレベルの基礎があれば、仕事に取り組みながら無理なく英語力を付けていくことできます。
弁理士業務で使う英語には
- 専門用語や特有の表現が出現する
- 単語と表現のバリエーションはそれほど多くない
という特徴があります。
つまり、汎用的な英語力は必要なく、業務で使う範囲の英語に対応できることの方が大事です、
英語を使った弁理士業務
それでは弁理士業務でどのように英語を使うのかを見ていきましょう。
4技能(読む、書く、聴く、話す)のうち、基本的に読み書きができれば問題ありません。
英会話の頻度は少なく、海外のクライアントや海外の特許事務所(現地代理人と言います)から訪問を受けたり、こちらが出向いたりなどのイレギュラーな場合です。
日常的に英語で電話をかけることはありません。
日常のどのような場面で英語を使うのかを詳しく説明します。
内外で英語を使う場面
「内外」とは、日本のクライアントが外国で知的財産権を取得するための業務です。
つまり、内(日本)から外(外国)に出ていくというイメージです。
内外では外国特許庁への特許出願や、出願後の外国特許庁とのやりとりに伴う業務を行います。
主に次の3つの業務があります。
出願書類の翻訳文(英語)のチェック
英語圏の特許庁に提出する出願書類は英語で作成する必要があります。
普通、出願書類(原文は日本語)の英訳作業は翻訳会社に外注するか、所内の翻訳担当者が行い、弁理士が出来上がった翻訳文をチェックします。
翻訳者は技術ではなく英語の専門家ですので、翻訳文には技術的・法律的な問題が含まれている場合があります。
弁理士がチェックして、このような問題があれば修正します。
つまり、和文と照らし合わせながら英語の出願書類を読んで修正できる英語力があれば十分で、一から翻訳文を作れなくても大丈夫です。
完成した出願書類(英語)を外国の特許事務所(現地代理人)に送付し、外国特許庁に提出してもらいます。
日本在住の日本人は外国特許庁に直接手続きすることができないためです。
以降の庁手続きに関しても現地代理人に代理で行ってもらうことになります。
内外での書類の流れをまとめると「日本のクライアント⇔日本の特許事務所(弁理士)⇔現地代理人⇔外国特許庁」と表せます。
拒絶理由通知のコメント作成
英語の出願書類を外国特許庁に提出してしばらく経つと、 外国特許庁から審査結果が出されます。
審査結果は登録 or 拒絶ですが、大抵は一発登録とはならず、審査結果は拒絶です。
この場合に、登録できない理由を記載した拒絶理由通知(オフィスアクションとも言います)を受け取ることになります。
まず、弁理士は拒絶理由通知(当然英語です)と、拒絶の根拠となる特許文献(これも多くは英語です)を読み込みます。
拒絶の内容を理解できたら、拒絶を解消するための対策を検討し、コメントとしてクライアントに送付します。
クライアントは日本人ですので、コメントは日本語で問題ありません。
現地代理人への指示レターの作成
コメントを送った後はクライアントからの応答指示(クライアントとして拒絶理由にどのように対応したいか)を待ちます。
応答指示が届いたら、クライアントの応答指示を現地代理人にレター(英語)で伝えます。
指示の内容によって英作文の難易度は変わります。
簡単な指示の場合は定型文でほぼ対応できますが、複雑な指示を伝えるときにはそれなりの英語力が必要です。
最初はうまく書けなくても訓練すればできるようになりますので、心配は要りません。
外内で英語を使う場面
外内は内外とは逆。つまり、海外のクライアントが日本で知的財産権を取得するための業務です。
海外のクライアントから英語で指示を受けて、日本特許庁とやり取りします。
具体的な業務を見ていきましょう。
出願書類の翻訳文(日本語)のチェック
内外とは逆に、英語の出願書類を日本語に翻訳する必要があります。
翻訳作業は翻訳会社か担当者が行い、弁理士が翻訳文(日本語)を主に技術的・法律的な観点からチェックします。
日本語をチェックすると言っても、原文(英語)の内容を正確に反映しているかを判断できる英語力が必要です。
完成した出願書類を日本特許庁に提出すれば出願手続きは完了です。
外内の場合の書類の流れは「海外のクライアント⇔日本の特許事務所(弁理士)⇔日本特許庁」と表せます。
拒絶理由通知のコメント作成
外内の場合、日本特許庁から日本語で書かれた拒絶理由通知が出されます。
当然、海外のクライアントは拒絶理由を読めませんので、拒絶理由の英訳を翻訳担当に作ってもらい、クライアントに送付します。
しかし、これだけでは不十分です。
拒絶理由には日本語の文献が引用されている場合が多いですし、クライアントは日本の特許実務をよく知りません。
どうすれば拒絶理由を解消できるのかがクライアントに分かるように、コメント(英語)を作成してクライアントに送付する必要があります。
特許庁への応答
内外の場合と同じく、クライアントから応答指示が届きますが、英語で指示されるのが大きな違いです。
英語で書かれた指示を読み込んで、日本語の応答書を作成する必要があります。
完成した応答書を日本特許庁に提出すれば業務完了です。
弁理士が取得したい英語資格トップ3
弁理士業務を行うのに英語資格は不要です。
しかし、資格を取得しておけば就職・転職の際にきっと役に立ちます。
特許事務所とメーカー知財部に転職経験のある私が勧める英語資格トップ3を紹介します。
1位:TOEIC Listening & Reading Test
断トツでおすすめなのはTOEIC Listening & Reading Testです。
TOEICは日本国内での認知度が高く、特許事務所・知財部への就職・転職で有利になります。
結果が合格/不合格ではなく、5点刻みのスコアで出ますので、今の自分のレベルが分かりやすいのもメリットです。
TOEICにはListening & Reading Testの他にSpeaking & Writing Testsがあります。
しかし、Speaking & Writing Testsは
- 知名度が低くく、就職・転職の場で評価されにくいこと
- SpeakingとWritingは上達までに時間がかかること
から積極的に受験する必要はないでしょう。
2位:英検
英検は4技能をバランスよく測れる試験として日本国内では評価が高いです。
1次試験ではReading、Writing、Listeningの筆記試験、2次試験ではListening、Speakingの面接試験を行います。
英会話は弁理士の日常業務には重要ではありませんが、
- 海外のクライアントの窓口になる
- 海外で営業する
といった目的があるのなら会話力が武器になります。
TOIECのスコアばかり追い求めて会話力がつかないパターンを避けるため、あえて英検を選ぶのも選択肢としてありです。
3位:知的財産翻訳検定
知的財産翻訳検定は知財英語の能力を図る数少ない資格です。
出願明細書などの和文英訳・英文和訳が出題されます。
就職・転職のためにはTOEICや英検の方が有利ですので、知的財産翻訳検定を優先して取り組む理由はありません。
しかし、他の人と差別化を図りたい方や翻訳担当になりたい方は取得してみるのもよいでしょう。
どうしても英語が嫌な人のためのキャリアプラン
以上、弁理士と英語について詳しく説明しました。
どのように英語を勉強すればよいかが少し見えてきたのではないでしょうか?
ただ、英語が必要と言われても、どうしても嫌だという方もいるでしょう。
国際化の流れを考えると、真正面から英語に向き合いたいところですが、誰にでも苦手はありますから仕方ありません。
そんな方のために極力英語を避けるキャリアプランを提案します。
大規模特許事務所の国内部門
大規模特許事務所では国内部門、国際部門などに組織が細分化されている場合があります。
国内部門の弁理士は日本国内の出願のみ取り扱いますので、英語ができなくても問題ありません。
海外市場がないメーカーの知財部
海外市場がないメーカーは外国で特許を取得することはありません。
このようなメーカーの知財部であれば英語には接することはないでしょう。
海外市場の有無は会社のウェブサイトで確認することができます。
意匠弁理士・商標弁理士
意匠か商標専門の弁理士になるのも一案です。
英語を完全には避けられないかもしれませんが、難解な技術文書を英語で読み書きする必要はなくなります。
ただし、意匠弁理士・商標弁理士のポストが少ないことには注意が必要です。
英語を使う知財職/英語を使わない知財職の探し方
「英語力を武器にしたい」
「働きながら英語を身につけたい」
「英語を使わない知財職につきたい」
など人によって希望は様々だと思います。
希望に沿った求人を効率よく探すなら転職エージェントを利用するのがよいでしょう。
特におすすめの転職エージェントは、法律職の転職に強いリーガルジョブボード(登録無料)です。
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