文系弁理士の将来性は?弁理士試験・就職は不利?

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この記事は、特許事務所・企業知財部に勤務経験がある現役の弁理士が書いています。

弁理士は理系の仕事というイメージですが、文系弁理士に将来性はあるのでしょうか。

文系のあなたに知っておいてほしい弁理士試験、就職・転職に関する情報を詳しく説明していきます。

目次

文系は弁理士試験で不利?→NO

文系は弁理士試験で理系よりも不利なのでしょうか?

結論から言って、答えはNOです。

以下では、文系が弁理士試験に不利でない理由を詳しく説明していきます。

すでに弁理士登録している方はここまで飛んでください

試験科目の点で不利ではない

弁理士試験は、知的財産法に関する試験であり、短答式試験・論文式試験・口述試験の3つからなります。

試験出題科目
短答式試験 特許・実用新案法・意匠法・商標法・条約・不正競争防止法
論文式試験(必須) 特許・実用新案法・意匠法・商標法
論文式試験(選択) 法律(民法の総則、物権、債権から出題)・理工I(機械・応用力学)理工II(数学・物理)・理工III(化学)・理工IV(生物)・理工V(情報)から1科目を選択
口述式試験 特許・実用新案法・意匠法・商標法

上の表のとおり、弁理士試験の出題範囲はほぼ知財法ですが、注目すべきは、論文式試験(選択)です。

理系科目(大学の学部レベル)がずらっと並んでおり、これらの科目を避けるには民法を選択するしかありません。

実際、文系は民法を選択する人が多いと聞きます。

選択の余地がないという意味で心もとない気がしますが、民法は知財法のベースとなる法律ですから、必須科目との相性はバツグンです。

つまり、総合的に見て文系は弁理士試験で不利ではありません。

むしろ法学部出身者の場合は、法学の基礎ができている分、有利とすら言えるでしょう。

文系の合格率は理系より低め

理工系文系
受験人数 2,465 人 693 人
最終合格者 228 人 44 人
最終合格率 9.2% 6.3%

元データ:令和2年度年弁理士試験結果

令和2年度弁理士試験の最終合格率は理系で9.2%、文系ではそれよりも低く6.3%でした。

なぜ、文系の合格率は低めなのでしょうか?

はっきりした理由は不明ですが、司法試験・司法書士試験といった他の法律系国家試験の存在が考えられます。

文系では学力の高い人たちが一定数、これらの国家試験に流れている可能性があります。

ちなみに他の試験と比較した弁理士試験の難易度については下記の記事を参照。

一方、理系の国家資格には弁理士と並ぶ選択肢がほとんどありません。

医師・薬剤師・建築士などは受験資格が制限されていますし、技術士などには弁理士と違って独占業務がありません。

そのため、理系では学力の高い層を含めて弁理士試験に集まりやすいのかもしれません。

ただ、文系でも理系でも結局は個人の頑張り次第ですので、統計データを気にする必要はないでしょう。

安心して弁理士試験の勉強に取り組んでOKです。

文系でも弁理士試験について不利でないと分かりましたが、就職・転職はどうなのでしょうか?

結論から言いますと、理系より選択肢が狭いという意味では残念ながら不利です。

しかし、文系弁理士が活躍できる場もありますので、安心してください(もちろん成功例もあります!)。

文系弁理士の進路としては、次の3つが有力です。

  • 意匠or商標のエキスパート
  • 機械or情報処理分野の特許担当 → 二番目におすすめ
  • 特許・意匠・商標の兼任 → 一番おすすめ

ひとつずつ詳しく見ていきましょう。

意匠 or 商標のエキスパート

理系知識が不要な意匠 or 商標のエキスパートを目指すのが一つ目の選択肢です。

特許事務所に就職したいのなら、意匠 or 商標専門の弁理士がいる特許事務所を狙ってください。

このような事務所は、分業化が進んだ大規模事務所であることが多いです。

意匠 or 商標専門の弁理士に弟子入りして経験を積むことで、一定のポジションを確立することができます。

ただし、意匠or商標のエキスパートになりたいなら、次の3点には留意しておいた方がよいです。

求人が少なめ

意匠 or 商標の専任職の求人は、特許担当に比べると少ないです。

試しにパテントサロンの求人スクエア(有名な求人サイトです)で「意匠」や「商標」の文字列検索(Ctrlキー+F)してみてください。

勤務地・応募条件も考慮すると、おそらく目ぼしい求人は数件くらいではないでしょうか?

意匠や商標の道に進むには、少ない応募のチャンスをものにする必要があります。

なお、転職エージェントを利用すれば、非公開求人にも応募できますので、チャンスを大幅に拡大することができます。

まずは登録して求人を探してみましょう。

特許より稼ぎにくい

特許・意匠・商標の国内市場規模はおおよそ次のとおりです。

1件当たりの売上件数市場規模
特許 26万円 30万件 780億円
意匠 11万円 3万件 33億円
商標 7万円 20万件 140億円

データの参照元
https://www.jpaa.or.jp/howto-request/attorneyfee/
https://www.jpo.go.jp/resources/report/nenji/2020/document/index/honpen0101.pdf

特許に比べると、意匠・商標業界では小さいパイを奪い合っています。

競争に立ち向かう気合があるのなら、飛び込んでいくのもよいでしょう。

一方、激しい競争を避けたいなら

  • 仕事量が安定している大手特許事務所
  • 企業知財部(クライアントから仕事を貰わなくてよいから)

を狙うのがおすすめです。

AIの脅威

「AIに仕事を奪われる?」

近年、マスコミなどでAIの脅威が強調されてきています。

マサチューセッツ工科大学のデイビッド・オーター教授によると、ルーティンワークの要素が強いほどAI代替可能性が高いという予測です。

弁理士業務はと言うと、クライアントのビジネスに基づいた臨機応変な対応が求められるクリエイティブな仕事です。

少なくとも現時点では、弁理士がAIに代替される心配はしなくてよいでしょう。

ただし、言われたとおりに機械的に仕事するだけの弁理士は危険です。

特に意匠・商標では意識しないと、ルーティンワークに陥ってしまいがちです。

依頼どおりに調査して、指定された図面を使って出願するだけではこれからの時代は生き残れません。

「クライアントがビジネスを有利に進めるにはどのような権利を取るべきか」を提案できるコンサルティング能力がAIに対抗するキーとなるでしょう。

機械 or 情報処理分野の特許担当

文系弁理士の進路の2つ目が、機械 or 情報処理分野の特許担当です。

なぜ機械と情報処理なのかと言うと、文系でも取っつきやすい分野だからです。

様々な分野を経験した私が選ぶ、技術分野のおすすめ順は次のとおりです。

機械>情報処理>制御>>>電気 > 化学>>>>>>バイオテクノロジー

(不等号の数は大雑把な感覚です)

機械分野は、てこの原理・摩擦のような身近な物理現象が分かっていれば大半の案件でなんとかなります(少しずつ勉強していくことも必要ですが)。

機械系の仕事は、自動車・家電・産業用機械などの製品において豊富にあることも嬉しいポイントです。

情報処理分野は、少し好き嫌いが分かれるかもしれませんが、論理立てて考えるのが好きな人には向いています。

特にプログラミングの経験がある人にとって情報処理はかなり取り組みやすいでしょう。

個人的には、文系弁理士であっても意匠・商標の専任よりも特許業務をおすすめします。

なぜなら、仕事の多さ・稼ぎやすさ・AIによる影響の低さの点で特許業務の方が将来性があるからです。

特許・意匠・商標の兼任

文系弁理士の進路の3つ目は、上で説明した特許・意匠・商標担当の兼任です。

この選択肢が最もおすすめです。

複数種類の業務をこなすのは大変ですが、マルチに活躍できる弁理士は重宝されます。

また、いろいろな業務を試してから適正のある道に絞っていく方針もよいでしょう。

文系弁理士の強み

ここまで、文系弁理士のデメリットを強調しすぎてしまったかもしれません。

反対に文系弁理士には強みがある、ということも紹介していきたいと思います。

法律知識の深さ

法学部出身は民法を履修していると思います。

特許法などの知財法は、民法をベースにした法律(一般法と特別法の関係)ですので、両方を勉強することで一層理解を深めることができます。

それにも関わらず、理系弁理士はほとんど民法を勉強していません。

民法は弁理士試験の科目ではありませんし、習得に時間がかかるからです。

民法履修者は、深い法律理解を武器にして質の高い法律文書を作成することができます。

文章力・読解力

弁理士は文章を書くか、読んでいる時間が8~9割といっても過言ではありません。

個人差は大きいものの、文系の方が理系よりも文章力・読解力が高い傾向にあると思います。

弁理士業務は文章に長時間接する仕事ですから、文章力・読解力は大事な素養です。

コミュニケーション能力

弁理士は個人プレー要素が強い反面、クライアントとコミュニケーションを取ることも必要です。

コミュニケーション能力も個人差が大きいですが、文系の方が高い傾向にあるでしょう(私の偏見?)。

弁理士はクライアントから情報を聞き出し、要望に沿って業務を進めていきます。

ときにはクライアント自身が気づいていない重要な情報や潜在的な要望も引き出さなければなりません。

こういった対人要素が強い業務はAI代替性が低いと言われています。

コミュニケーション能力を磨くことで、AIにも勝てる将来性のある弁理士になれるでしょう。

語学力

弁理士業界において外国語(特に英語か中国語)の重要性は高まってきています。

日本企業がビジネスを外国まで広げたり、逆に外国企業が日本に進出したりするケースが増えているためです。

語学力が比較的高い文系には有利な傾向と言えるでしょう。

語学力が高ければ業務の幅が広がりますし、将来的に海外で活躍する道も拓けます。

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