この記事は、現役の企業内弁理士が書いています。
近年、メーカーに勤務する企業内弁理士の割合が増えてきています(全弁理士のうち20%程度)。
メーカー知財部で働く上で弁理士資格は必須ではありません。
しかし、知財部員でも弁理士資格を取得するメリットはあります。
このページでは知財部勤務の経験に基づいて、知財部員が企業内弁理士になるメリット・デメリットを説明しています。
弁理士になろうか迷っている方は読んでおいて損はないと思います。
弁理士資格とは?
メリット・デメリットの話をする前に、弁理士とは何かを確認しておきましょう。
簡単に言うと、弁理士資格とは知財に関する特許庁への手続き等を代理することができる国家資格です。
逆に弁理士資格を持たない人は出願人の代理はできません。
例えば、特許事務所の所員がクライアントを代理して手続きするためには弁理士資格が必要となります。
弁理士資格を持たない所員は、弁理士の監督の下、業務を補助することになります。
一方、メーカーの知財部員は、自社の知財に関する手続きを行うことができます。
この場合「代理」ではなく、あくまでも「本人(=会社)」として手続きするからです。
ポイントは、企業内弁理士でなくてもメーカー知財部での業務に支障がないということです。
実際、弁理士が一人もいない中小企業の知財部から、弁理士が数十人もいる大企業の知財部など、会社によって弁理士の人数は様々です。
企業内弁理士になるメリット
メーカー知財部では弁理士資格は必須でないと言いました。
しかし、企業内弁理士になると様々なメリットがあるのも事実です。
資格手当がつく(会社による)
金銭的なメリットとして弁理士資格を取得すると、会社によっては資格手当がつくことがあります。
あるいは
- 弁理士登録したときに一時金が支払われる
- 登録料35,800円、月々の弁理士会費15,000円を払ってもらえるが、手当はない
など会社によってパターンは様々です。
勤務先の社内規定を見ておくか、社内規定がない場合には関係部署に問い合わせておきましょう。
もし手当がなく、登録料と会費が自己負担というルールの場合、逆に弁理士資格がデメリットになってしまいますから、事前確認は大事です。
人事評価が高まる
弁理士になることで、知財法の知識を十分に持っているとして社内的に評価されます。
多くの知財部では弁理士は少数派ですから、他人と差別化できるのがメリットです。
部内で相談を受けたり、新人教育を任されたりなど仕事内容の幅も広がりやすくなります。
人事評価が高まることは、間接的な意味で年収アップの効果があるとも言えるでしょう。
また、弁理士資格を持っていると、社外の特許事務所からも一目置かれるようになります。
自身の能力や経験にも因りますが、特許事務所に教えを乞うスタンスでは、悪い言い方をすると特許事務所から舐められてしまいます。
企業弁理士になるかどうかは別としても、特許事務所と対等に法律論を交わせる実力を身に着けておきたいところです。
社外の弁理士と交流できる
弁理士になると、まず同期合格の弁理士とのつながりができます。
さらに委員会、会派といったコミュニティに所属すれば、様々な世代の弁理士と交流できます。
例えば、委員会には特許法を研究する会があったり、大学で知財法の講師を務める会があったり、バラエティに富んでいて楽しめます。
会派では、弁理士試験の合格祝賀会、スポーツイベント、弁理士会の選挙活動などが行われます。
若手弁理士が活躍する会派や、ベテラン弁理士が多く在籍する会派などがあり、自分の性格に合う会派を選べばよい仲間ができると思います。
弁理士同士のつながりをきっかけとして仕事を依頼したり、転職先が見つかったりすることもあります。
実際、私の知り合いの弁理士で、引退する弁理士から特許事務所の経営を引き継がせてもらえた人がいます。
チャンスはどこにあるか分からないものですね。
最新情報をキャッチできる
知財業界で働く人は法改正や判例などの最新情報に常にアンテナを張っておく必要があります。
弁理士になっていれば、弁理士会からセミナーや法改正の説明会など最新情報をキャッチしやすくなります。
転職で有利に働く
労働者の7割程度が一生のうちに転職を経験すると言われています。
個人的な経験から言って特に知財業界では転職がさかんです。
今のあなたが転職するつもりがなかったとしても、いつか転職を考える機会が来るかもしれません。
弁理士資格は転職で強力なカードとなります。
転職の場で最も重要なのは実務能力(つまり利益を上げる力)ですが、実務能力をなかなか客観的に証明することはできません。
「年間○○件を出願している」とか「プロジェクトのリーダーだった」とか言っても社外の人にはスゴさが伝わりにくいですよね。
悪い見方をすれば、話を盛っている可能性もありますし。
一方、弁理士資格を持っていれば少なくとも
- 業務を遂行するための法律知識があること
- 努力して目標を達成する能力があること
を客観的に証明できます。
実際に私が企業の知財部に転職した際に「弁理士資格に助けられたな」と実感しました。
企業内弁理士になるデメリット
一方、企業内弁理士になるデメリットもありますので、知っておいた方がよいと思います。
資格取得に費用・時間コストがかかる
デメリットはほぼ費用と時間に尽きるのではないでしょうか。
弁理士試験を合格するまでに平均3,000時間の勉強が必要と言われています。
効率よく勉強すれば時間短縮はできますが、それでも社会人には辛いものがあります。
そして、独学で合格するのはかなり難しく、予備校費用もかかります。
弁理士になるまでの詳しい流れについては下記記事を参照。
費用と時間を投入するだけのメリットがあるのか?が企業内弁理士を目指すポイントだと思います。
継続研修が面倒・・
弁理士になると、継続研修を受け続けて5年ごとに一定の単位を取得しなければなりません。
セミナー、eラーニングなどを受講して単位を集めていきますが、面倒くさがりな私はいつも期限ぎりぎりで一気に受けています。
ただし、勉強熱心な人は逆にメリットに感じるかもしれません。
知財部員は弁理士資格を取るべき?
結論を言いますと、
知財部員は弁理士資格を取らなくてもよい。
しかし、時間・費用を費やすだけのメリットを感じるなら取るべし。
「メリットを感じるか」というのは本当に重要です。
企業内弁理士になった後に自分がどうなっているか、5年後、10年後の自分を想像してみてください。
- 知財部でリーダーとして活躍している?
- 特許事務所に転職して年収アップ?
- 独立して特許事務所を経営している?
弁理士試験の勉強は楽ではありませんが、将来の目標が明確ならきっと頑張れると思います。
企業内弁理士を目指す方へ
企業内弁理士を目指す決心がついたら善は急げ。さっそく弁理士試験の勉強を始めましょう。
弁理士試験は独学では難しく、多くの受験生は予備校に通ったり、通信講座を受講したりしています。
「知財部員なら独学で大丈夫では?」と思うかもしれませんが、やはり独学はおすすめできません。
実務で使う知識は試験範囲の極一部ですし、実務と学問にはギャップがあるからです。
弁理士試験の独学については下記の記事で詳しく説明しています。
予備校・通信講座で学ぶなら、業界大手のLEC、 質の高いオンライン講義を受けられる資格スクエアがおすすめです。
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