発明提案書を書かなければならないエンジニアの方。
初めて発明提案書を書くとき、様々な悩みが生じると思います。
「書き方が分からない」
「特許に詳しい人がいないから質問できない」
「フォーマット(ひな形)がないと書きにくい」
このページでは、特許の専門家・弁理士イシワカが発明提案書の書き方を伝授します。
紹介する9項目に沿えば、自力で発明提案書を書けるようになれます。
発明提案書の役割
そもそも発明提案書は何のためにあるのでしょうか?
端的に答えるなら、発明に関係する情報や、発明に対する発明者(あなた)の考えを関係者に伝えるためです。
関係者とは、あなたの上司、知財担当者、特許事務所の弁理士を指します。
発明提案書に基づいて正式な特許出願原稿が作成され、特許庁に提出されます。
つまり、発明提案書は特許出願原稿の設計図のようなものです。
発明提案書のフォーマット(9項目)
発明提案書のフォーマットとして、ぜひ書いてほしい9つの記載項目があります。
これらの項目を書けば、誰でも質のよい発明提案書を作ることができます。
項目ごとに詳細を説明していきましょう。
①発明の名称
最初に発明の名称(タイトル)を書きましょう。
発明の内容をある程度想像でき、後で見返したときにどの案件だったかを思い出せるような名称が理想的です。
ただし、文字数が多くなりすぎると管理しにくくなりますので、ざっくりとした名称で大丈夫です。
例えば「ハイドロプレーニング現象を防ぐ自動車タイヤの構造」、「2D画像から3Dモデルを生成するAI」くらいの粗さでよいでしょう。
②発明者
発明者は、当然あなた自身のはずですが、あなた一人だけとは限りません。
あなた以外の発明者(つまり共同発明者)がいる場合には忘れずに全員の名前を書きましょう。
もし発明者に漏れがあると、不適法な特許として権利が無効になるおそれがあるからです。
ここで難しいのは、発明者なのかどうか分かりにくい人がいる場合です。
実験を手伝ってくれた人、アドバイスをくれた人などが発明者に該当するのかは悩ましいところです。
基準としては、発明完成のために創造的な貢献をした人を発明者と考えてください。
例えば、実験を手伝った人であっても、創造性が必要ない作業しかしていないのであれば発明者とは言えません。
逆に手を動かさずにアドバイスしただけの人であっても、普通には思いつかないアイデアを提供したのであれば発明者になり得ます。
③公開予定
公開予定は、発明の内容を第三者に公開する予定があるのかどうか(公開予定がある場合は具体的な時期)です。
第三者というのは秘密保持義務を持たない者、多くの場合では社外の人を指します。
例えば、プレスリリースで商品を発表すること、客先に納品することなどが公開予定に該当します。
なぜ公開予定が重要かと言うと、公開した瞬間に発明が新規でなくなってしまうからです。
特許出願は、原則として発明が新規であるうちに出す必要がありますので、早めに発明提案書を提出してください。
そうは言っても、公開予定が間近になってしまったとか、すでに公開してしまったという場合もあるかもしれません。
そのような場合であっても、速やかに発明提案書を提出してください。
新規でなくなってから1年以内であれば、所定手続きを行うことで有効な出願が可能となるからです(新規性喪失の例外)。
④従来技術
従来技術は、これまで公に知られている技術のうち、あなたの発明に近いものです。
特許文献、学術論文、販売されている商品などが従来技術に該当します。
あなたが知っている範囲の従来技術を記載してください。
⑤課題
課題とは従来技術が抱える問題点です。
次に述べる解決手段とセットとなる項目であり、整合性の取れた課題を設定する必要があります。
⑥解決手段(発明のポイント)
解決手段は、課題を解決するための手段のことです。
従来技術→課題→解決手段は、次のようにひとつの流れとして表すことができます。
従来から〇〇という技術がある。
しかし、従来技術は××であることが課題である。
その課題を解決したのが△△という手段である。
△△が発明のポイント部分です。
イメージが湧きにくいかもしれないので、簡単な例を挙げてみましょう。
従来、宅配便の配送にはトラック、バイクといった乗り物が用いられてきた。
しかし、交通渋滞により指定時間に配達することが困難な場合がある。
地上の交通渋滞に巻き込まれないように、配達用のドローンを開発した。
従来技術→課題→解決手段の流れをスムーズにするのが重要ですが、うまく繋がらない場合もよくあります。
それはおそらく発明と従来技術が嚙み合っていないため、適切な課題ができていないことが原因です。
その場合は発明(解決手段)から逆算して課題→従来技術を考えてみてください。
⑦効果(課題の裏返し)
効果とは、解決手段から生じる技術的なメリットのことです。
解決手段によって課題を解決できること自体がメリットとなりますので、効果と課題は対の関係になります。。
例えば、上述したドローンの例では
課題=交通渋滞により指定時間に配達できない
効果=地上の交通渋滞に巻き込まれずに指定時間に配達可能になる
のようになります。
ここで細かいところに気が付く人だと、
- ドローンが飛ぶ空中で渋滞が起こる可能性がある
- 天候が悪いとドローンは飛べない
といった点が気になるかもしれませんが、ここでは個別のケースを無視して大筋を捉えましょう。
課題で述べた問題さえクリアできていればよいくらいに考えてください。
⑧実施例
実施例とは、発明の詳細を具体的に説明したものです。
例えば、メカの発明であれば全体の構造が分かるように、ソフトウェアの発明であればアルゴリズムが分かるにように丁寧に説明してください。
文章だけでなく、図面(設計図、ブロック図、フローチャート、グラフなど発明の内容に応じたもの)も添付しておきましょう。
とにかくアピールできる特徴をすべて記載しておくことが重要です。
⑨別実施例
別実施例は、前項目の実施例に対するバリエーションに当たるものです。
例えば、実施例ではバネを用いて弾力を持たせている部分で、バネの代わりにゴムを用いてもよいとします。
この場合、ゴムを用いた実施例が別実施例になります。
考えられる別実施例を網羅することで強い特許になりますので、頭を柔らかくして色々と検討してみてください。
特許取得までの道のり
発明提案書を提出した後は、知財担当者、特許事務所の弁理士と協力して特許取得に向けた手続きを行っていきます。
発明者のあなたは、基本的には彼らから協力を求められたときに行動すればよいはずです。
ただ、知財部や特許事務所がどのように仕事しているのか知っておいて損はないと思います。
下記の記事もぜひ読んでみてください。