特許業界の求人を調べていると「特許技術者」の募集をよく見かけると思います。
あなたは特許技術者とはどんな職業か、正確に分かりますか?
募集要項に一通りの説明が載っているものの、それが全てではありません。
募集要項では書けない情報が隠されている可能性があります。
このページでは、かつて特許技術者として働いていた弁理士イシワカが特許技術者の実情を明かします。
特許技術者とは?
特許技術者とは、特許事務所で特許明細書作成などの業務に従事する人のうち、弁理士資格を持っていない人を指します。
メーカーの知的財産部に勤務する人は、特許技術者に含めないのが普通です。
特許技術者の仕事内容
特許事務所はメーカー・大学・研究所・個人発明家から特許などの権利化の依頼を受けます。
特許技術者の主な仕事は、その依頼に応じて権利化のための各種書類を作成することです。
具体的にどのような業務があるのか、その例を見ていきましょう。
特許出願書類の作成
発明者から発明内容をヒアリングし、出願書類に文書化する業務です。
特許技術者は就業時間の大半をこの出願業務に費やすことになります。
書類作成にあたって発明を理解する技術理解力や、特許法に沿って適切に表現する文章力が求められます。
1件当たりのページ数はまちまちで、短い案件では数ページ、長いと20ページ以上になることもあります(ちなみに1ページは2,000文字です)。
中間書類の作成
作成した特許出願書類を特許庁に提出しても、そのままの形で登録されるとは限りません。
大半の出願に対して特許庁から拒絶理由通知という書類が発行されます。
拒絶理由通知は「そのままでは登録を認めません」というメッセージのことです。
拒絶理由に応答して書類の不備を解消する手続きのことを俗に「中間処理」と呼びます。
中間処理のための書類(補正書・意見書)を作成するのも頻度の高い仕事です。
特許技術者と弁理士の違い
特許技術者と弁理士は弁理士資格の有無が異なり、それによって次のような違いが生じます。
弁理士の指揮監督が必要
弁理士でない特許技術者は、他人のために知財に関する手続きを行う(代理する)ことができません(弁理士法75条)。
そのため、特許技術者が上述した業務を行う際には弁理士の指揮監督が必要となります。
具体的には発明者との面談に弁理士が同席したり、出来上がった原稿をチェックしたりします。
ただし、ベテラン特許技術者の場合、能力的には一人で業務を遂行できることもあり、指揮監督はある程度形式的になっているのが実情です。
特許事務所によっても指揮監督のレベルは若干異なってきます(もちろん、法令遵守が前提ですが)。
経営者になれない
弁理士と異なり、特許技術者は特許事務所の経営者になることができません。
つまり、勤務する事務所内で昇進して共同経営者(パートナー)になれませんし、独立して自分の事務所を開くこともできません。
特許技術者と特許事務の違い
特許技術者と特許事務の大きな違いは仕事内容です。
特許事務の仕事は、特許庁への提出書類の期限管理、経理など定型的な業務が中心となります。
一方、特許技術者の仕事は上述したとおり、技術的な要素を含む非定型業務です。
なお、特許事務所によっては特許技術者と特許事務の中間的な存在として、図面作成者や翻訳者を置いている場合があります。
図面作成者・翻訳者は、弁理士や特許技術者が作成する書類に含まれる図面・翻訳の部分を担当します。
特許技術者の年収
特許技術者の給与体系は歩合制である場合が多く、その年収は不確定な点が多いです。
担当案件の数が多くなるほど、年収は高くなっていきます。
おおよその目安として業界未経験の新卒または第二新卒で300万円台からスタート、将来的に600~700万円程度です。
弁理士と比較すると、何年かのうちに年収が達してそれ以上は上がりにくくなるのが特徴です。
その理由は、時間当たりに書ける文章量が限界に達するからです。
年収の壁を突破するには、顧客窓口となって部下を指導する立場になるか、経営者サイドに回る手段がありますが、その場合には弁理士資格が必要となります。
もし経営者になって事務所規模の拡大に成功すれば、年収は青天井です。
特許技術者になるには?
特許技術者になるには特許事務所に就職・転職する必要があります。
求人の探し方には大きく3つあります。
特許事務所のウェブサイト
特許事務所のウェブサイトの求人ページから応募することができます。
入りたい特許事務所の目ぼしがあれば、簡単に探せるので、この方法がよいでしょう。
一方、当てがない場合や複数の求人を比べたい場合には探すのが難しくなります。
パテントサロン
パテントサロンというサイトの求人スクエアで多数の求人を見ることができます。
募集元が料金を支払って掲載いますので、自社サイトでの募集よりも本気度が高いのがよい点です。
転職サイト・エージェント
転職サイトやエージェントを利用すると、他の方法では見つからない非公開求人にも応募することができます。
また、経験を積んだエージェントからアドバイスを貰ったり、スケジュール管理をしてもらえたりします。
中でもおすすめのエージェントは、知財職の求人が豊富なリーガルジョブボードです。
特許技術者から弁理士になるには?
特許技術者になった後は、仕事に従事しつつ、弁理士試験の勉強を進めることになります。
特許事務所は弁理士資格の取得を所員に推奨しており、予備校費用の補助、試験前の休暇などの制度を用意している場合もあります。
弁理士になるまでの道のりについては下記の記事で詳しく説明しています。
特許技術者が弁理士試験に合格できないとどうなる?
弁理士試験は簡単ではないものの、諦めずに勉強を続ければ合格できる試験です。
しかし、残念ながらなかなか合格できない特許技術者がいることも事実です。
合格できなかった場合にどうなるのか気になるところだと思います。
結論から言うと、合格できなかったとしても仕事を失うなどのリスクは低いと考えられます。
特許事務所は営利団体ですので、仕事ができ、利益を上げられる所員には価値があると判断するからです。
実際に特許技術者として長年働き、十分な収入を得ている人は大勢います。
ですので「もし弁理士資格が取れなかったら・・」と過剰に心配する必要はありません。