「弁理士 学歴」で検索してきた方へ。
まず良い知らせですが、弁理士になるのに高い学歴は不要です。
無名の大学出身の弁理士もいますし、例は多くないものの、大学を出ていない弁理士もいます。
ただ、弁理士になることだけでなく、その先も考えなくてなりません。
多くの方は弁理士資格を取った後に就職や転職を控えていると思います。
そして、職に就いた後は日々の弁理士業務に従事することになります。
弁理士取得から、就職、そして日常業務まで学歴がどのように関係するのかを現役弁理士が徹底解説します。
弁理士資格の取得 → 学歴は不要
まず、弁理士になるために学歴が不要であることを説明します。
弁理士試験の受験資格
弁理士試験の受験資格は特許庁ウェブページで次のように書かれてれています。
特にありません。
引用元:https://www.jpo.go.jp/news/benrishi/shiken-gaiyo.html
(学歴、年齢、国籍等による制限は一切ありません。)
つまり、偏差値の低い大学出身であっても弁理士になれます。
それどころか大学を出ていなくても問題ありません。
弁理士試験合格者の学歴
「受験資格があることと、試験に合格できるかは別の話では?」と思った方もいらっしゃると思います。
確かにそのとおりです。
学歴と合格率の関係を検証するために令和3年度弁理士試験のデータを見てみましょう。
以下の表では、合格者数が多い大学順にデータを並べています。
出身校 | 志願者数(人) | 合格者数(人) | 合格率(%) | 全合格者数に対する割合(%) |
東京大学 | 229 | 21 | 9.2 | 10.5 |
京都大学 | 174 | 15 | 8.6 | 7.5 |
大阪大学 | 121 | 12 | 9.9 | 6.0 |
早稲田大学 | 141 | 9 | 6.4 | 4.5 |
東京工業大学 | 116 | 8 | 6.9 | 4.0 |
九州大学 | 68 | 8 | 11.8 | 4.0 |
日本大学 | 106 | 8 | 7.5 | 4.0 |
慶応義塾大学 | 102 | 7 | 6.9 | 3.5 |
東京理科大学 | 139 | 7 | 5.0 | 3.5 |
東北大学 | 97 | 6 | 6.2 | 3.0 |
名古屋大学 | 75 | 6 | 8.0 | 3.0 |
上智大学 | 30 | 5 | 16.7 | 2.5 |
神戸大学 | 52 | 4 | 7.7 | 2.0 |
中央大学 | 82 | 4 | 4.9 | 2.0 |
立命館大学 | 48 | 4 | 8.3 | 2.0 |
一橋大学 | 不明 | 3 | 不明 | 1.5 |
筑波大学 | 63 | 2 | 3.2 | 1.0 |
同志社大学 | 64 | 2 | 3.1 | 1.0 |
東京農工大学 | 46 | 2 | 4.3 | 1.0 |
明治大学 | 46 | 2 | 4.3 | 1.0 |
関西大学 | 37 | 2 | 5.4 | 1.0 |
千葉大学 | 39 | 2 | 5.1 | 1.0 |
大阪工業大学 | 61 | 2 | 3.3 | 1.0 |
金沢工業大学 | 22 | 2 | 9.1 | 1.0 |
龍谷大学 | 不明 | 2 | 不明 | 1.0 |
群馬大学 | 不明 | 2 | 不明 | 1.0 |
広島大学 | 39 | 2 | 5.1 | 1.0 |
国際基督教大学 | 不明 | 2 | 不明 | 1.0 |
横浜国立大学 | 30 | 1 | 3.3 | 0.5 |
京都工芸繊維大学 | 21 | 1 | 4.8 | 0.5 |
大阪府立大学 | 30 | 1 | 3.3 | 0.5 |
東京農業大学 | 不明 | 1 | 不明 | 0.5 |
立教大学 | 25 | 1 | 4 | 0.5 |
茨城大学 | 不明 | 1 | 不明 | 0.5 |
岡山大学 | 28 | 1 | 4.0 | 0.5 |
その他大学 | 不明 | 37 | 不明 | 18.6 |
短大・専門 | 50 | 1 | 2.0 | 0.5 |
高校 | 44 | 3 | 6.8 | 1.5 |
中学 | 5 | 0 | 0 | 0.0 |
合格者数の上位から東大、京大、阪大・・と一流大学が名を連ねています。
弁理士は理系最高峰の国家資格と言われていますので、一流大学から受験生が集まり、多数の合格者が出るのは自然です。
それよりも大学別の合格率が問題です。
統計的に有意かは分かりませんが、大きな傾向として合格者が多い大学の方が合格率も高いように見えます。
例えば、合格者が4人以上の大学の合格率は概ね5%以上で、中には10%以上の大学もあります。
一方、合格者3人以下の大学は合格率5%に達していないところが多いです。
やはり、偏差値が高い大学の出身者は弁理士試験に合格しやすいようです。
高偏差値の人は試験勉強自体が得意だからと思われます。
それでは学歴が高くない人は諦めるべきかというとそうではありません。
諦めなくてよいと思う理由は2つあります。
- ほとんどの受験生のスタートラインは同じ
ほとんどの受験生は、弁理士試験の受験科目である知的財産法を初めて勉強します。
これまでに身に着けた知識で差はつかず、みんなが同じスタートラインに立っていると思ってください。
- 勉強時間の確保と効率化が勝負
弁理士試験の受験生の約8割は社会人で、働きながら勉強しています。
忙しい中で勉強時間を捻出し、勉強効率を上げることが試験突破のポイントです。
学力や頭の良し悪しに関係なく、正しい戦術を持って勉強すれば弁理士試験は合格できる試験です。
なお、働きながら弁理士になる方法については、下記の記事で詳しく書いています。
理系出身の方が有利? → NO
他に学歴に関してよくある疑問が「理系の方が文系よりも有利なのか?」です。
弁理士は理系資格と言われますが、実は試験に理系知識は不要です(ただし、選択科目では科目によっては必要な場合があります)。
実際、文系で弁理士試験に合格している人は大勢います。
文系の場合は試験よりも、むしろ弁理士になった後の進路をよく考えておく必要があります。
文系弁理士の詳細については下記の記事をどうぞ。
学歴によるメリット → 選択科目の免除
弁理士試験に学歴は不要と説明してきましたが、学歴によるメリットがないわけではありません。
例えば、大学院卒の場合に論文試験(選択科目)が免除となります。
選択科目免除の条件は、下記のとおりいくつかあります(いずれかの項目に該当すれば免除)。
・論文式筆記試験選択科目合格者(平成20年度合格者から適用)
平成20年度以降の論文式筆記試験選択科目に合格した方は、永久に同試験が免除されます。
・修士又は博士の学位を有する方
学位授与に係る論文の審査に合格した場合、選択科目が免除になります。
・専門職の学位を有する方
論文式筆記試験(選択科目)の「科目」に関する研究により学校教育法第104条第1項に規定する文部科学大臣が定める学位を有する方のうち、専門職大学院が終了要件として定める一定の単位を修得し、かつ当該専門職大学院が終了要件として定める論文(前記単位には含まない)の審査に合格した場合、選択科目が免除されます。
・特許庁が指定する他の公的資格を有する方
特許庁が指定する他の公的資格を有する方は、永久に同試験が免除されます。
免除の条件・手続きの詳細は弁理士試験の案内でご確認ください。
選択科目の選び方・勉強法については下記の記事はどうぞ。
弁理士の就職・転職 → 学歴の影響あり
学歴が低くても弁理士になれることは上で説明したとおりです。
しかし、弁理士になった後の就職・転職も考えておく必要があります。
弁理士の主な就職先は特許事務所、メーカーの知財部の2つです。
特許事務所、知財部に就職する際の学歴の影響を説明します。
特許事務所就職への学歴の影響
特許事務所の場合、学歴の影響は比較的小さいと考えられます。
一般の会社で採用基準に学歴を使う大きな理由はフィルターをかけるためです。
例えば、メーカーの新卒採用には何百、何千の応募があり、全員に面接する時間は取れません。
それどころか履歴書を丁寧に見る時間もないかもしれません。
そのため、会社によっては学歴フィルターで候補者を絞っていると言われています。
高学歴=仕事ができる、は成り立ちませんが、両者に一定の相関があると考えるからでしょう。
知財部の中途採用なら応募数はそこまで多くないでしょうが、新卒採用者とのバランスをとるために学歴フィルターをかけている可能性はあります。
一方、特許事務所は学歴フィルターをかける必要がありません。
一定以上の規模の会社に比べて、新卒でも中途採用でも応募数がずっと少ないからです。
おおよその規模感として、100人以上の所員がいる特許事務所は少なく、数人~数十人規模の特許事務所がほとんどです。
知財部就職への学歴の影響
メーカー知財部への就職の場合、特許事務所への就職よりも学歴の影響は強い傾向にあります。
しかし、会社ごとにどの程度学歴で判断するかは異なりますので、学歴に自信がなくても諦める必要はありません。
エントリーシートを可能な限り多く提出してトライしましょう。
応募することにリスクはありません。
知財部への転職を考えている方は下記の記事もどうぞ。
就職後の学歴の影響 → 少ない
ここからは特許事務所または知財部に就職した後の学歴の影響についてです。
基本的に日々の業務を行う際に学歴は関係ありません。
私自身、知財部に勤めていますが、同僚の学歴を気にしませんし、そもそも出身校を知らない同僚もいます。
ただし、特許事務所所属の弁理士だけは例外で、クライアントが気にするかもしれません。
特許事務所では所属弁理士の経歴をウェブページで公開していることが多いです。
そのため、クライアントが担当弁理士の経歴を知るのは容易です。
私も見ることがありますが、担当弁理士の学歴が高いかどうかより、その人の専門分野や実務歴を気にします。
周りの同僚から話を聞いた限りでは、担当弁理士の学歴の高さを気にする人は少数でした。
まとめ
- 弁理士になるために学歴は不要。
- 特許事務所への就職の方が、知財部への就職よりも学歴の影響は小さい。
- 就職後の業務には学歴の影響はほとんどない。ただし、特許事務所勤務の場合、一部のクライアントが気にするかもしれない。