この記事では、弁理士試験の論文試験(必須科目)の勉強法を解説しています。
私は1年目に短答合格・論文試験不合格となり、翌年に最終合格しました。
論文試験に一度失敗しているからこそ、何をしたら失敗するのかをよく分かっています。
論文試験に失敗する原因と、合格するためのポイントを詳しく解説していきます。
論文式試験の概要
まず、勉強法の前に論文式試験について説明します。
試験勉強を続けてきた人でも意外と知らないことがあると思いますので、一度確認してみましょう。
論文試験の試験科目(必須科目)
論文試験の試験科目(必須科目)は、
- 特許・実用新案法
- 意匠法
- 商標法
の3科目です。
各法の条文だけでなく、審査基準・施行規則・工業所有権逐条解説(青本)・判例・学説からも出題されます。
また、条約(パリ条約、PCT条約、マドリッドプロトコル)は試験科目ではないものの、特実意商に関連する部分が出題されます。
論文式試験の出題形式
論文式試験は、名前から分かるとおり記述式の試験です。
解答用紙への記入は、黒又は青インクのボールペンもしくは万年筆を使うと決まっています。
鉛筆・サインペン・消せるボールペンは使用不可です。
ボールペン・万年筆にはこだわりましょう。
具体的には、
- 速くきれいに書けるもの
- 長時間書いても疲れないもの
- 量産品(替えを入手可能)であること
がポイントです。
普段から同じボールペンor万年筆を使い、筆箱に2、3本を常備しておきましょう。
ちなみに私が使っていたのはジェットストリーム(三菱鉛筆)です。
細くて滑りのよいボールペンが好きならジェットストリームがおすすめです。
もうひとつ記述で気を付けたいのが特定答案にならないようにすることです。
特定答案とは、受験者を特定できる答案のことです。
公平を保つために、論文試験の採点は受験者の名前を伏せて行われます。
しかし、例えば受験者が答案用紙の隅に何かの記号を書いてしまうと、誰の答案か分かってしまうおそれがあります。
採点の公平にするため、そのような特定答案は0点になってしまいます。
他にも特定答案の具体例として、
- 解答欄に名前を書いている
- 行頭を大きく空けすぎている
- 一行おきに書いている
- 略字を使っている
などパターンは無数にあります。
パターンが全部分からないと不安かもしれませんが、普通に答案を書いている分には心配はいりません。
「普通の答案って何?」という方は、予備校の答練・模試の模範答案、優秀答案を参考にしてみてください。
論文式試験の試験時間
論文試験の科目ごとの試験時間は次のとおりです。
特許・実用新案法 | 2時間 |
意匠法 | 1.5時間 |
商標法 | 1.5時間 |
それでは、上の時間内にどれだけの問題を解けばよいのでしょうか?
問題の分量は年によってバラツキがありますが、令和3年度論文試験では次のとおりでした。
大問 | 小問 | 解答用紙(裏表あり) | |
特許・実用新案法 | 2題 | 10問 | 2枚 |
意匠法 | 2題 | 3問 | 1枚 |
商標法 | 2題 | 3問 | 1枚 |
どの科目も時間的な余裕はありません。
特に特許・実用新案法は時間との戦いです。
私の経験上、特許・実用新案法での記述量は1題当たり表ページ全部(A4用紙2枚分)を埋めるくらいが目安です。
一方、意匠法での記述量は2題で表ページ全部+裏ページ半分(A4用紙3枚分)くらい。商標法も同じです。
たくさん書いたからといって高得点になる訳ではありませんが、必要な記載をすると自然とこの程度の記述量になります。
法文集の貸与
試験の際には弁理士試験用法文が貸与され、参照することができます。
試験終了後に法文集を持ち帰れますから、実質的には貸与ではなく、授与と思って構いません。
貸与される法文集は、市販のものよりも紙が薄く、ページがめくりにくい点に注意してください。
初めて受験すると少し戸惑うかもしれません。
周りにすでに論文試験を受けたことがある人がいたら、見せてもらうとよいと思います。
論文式試験の合格点・合格率
論文試験の合格点は次のように規定されています。
標準偏差による調整後の各科目の得点の平均(配点比率を勘案して計算)が、54点を基準として口述試験を適正に行う視点から工業所有権審議会が相当と認めた得点以上であること。
引用元:https://www.jpo.go.jp/news/benrishi/shiken-annai.html
ただし、47点未満の得点の科目が一つもないこと。
ただし、点数は気にしても意味がありません。
100点満点に対して54%得点できていればいいように見えますが、現実では100点はほぼ不可能です。
LEC、TACなど大手予備校の模試を受けてみれば得点の感覚が分かります。
相当できたと思ってもせいぜい70点台に留まっていたりします。
個人的には、8割くらいできた感覚で合格点のイメージです。
足切りの47点も低いようで意外と引っかかりやすいので注意してください。
論文式試験の免除制度
以下に該当する方は論文試験が免除されます。
- 論文式筆記試験(必須科目)合格者
- 特許庁において審判又は審査の事務に5年以上従事した方
ただし「論文式筆記試験(必須科目)合格者」の免除は、論文合格から2年間という制限があります。
2年以内に最終合格できなかった場合、再び論文試験を受験する必要があります。
論文式試験の勉強法
いよいよ論文試験の勉強法を説明していきます。
ここでは短答合格レベルの知識を持っていることを前提とします。
論文試験以前の入門~短答合格までの勉強法を知りたい方は下記の記事をどうぞ。
予備校を活用する
最初に一番重要なポイントとして、予備校を利用してください。
短答試験は独学で突破できる方もいると思いますが、論文試験は
- 自分では採点基準が分からない
- 答案を客観的に採点できない
- 相対評価が分からない
といった理由から独学で合格するのは相当厳しいです。
予備校に通う時間がない方でもオンライン学習できるサービスがあります。
特に大手予備校と遜色ない講義を格安で受けられる資格スクエアがおすすめです。
事例問題の攻略(要件当てはめ→効果のパターン)
最近の弁理士論文試験では事例問題の配点が大きいです。
事例問題では条文の要件に事実を丁寧に当てはめ、条文から導かれる効果を記載することが重要です。
点数が伸びない人はこの基本ができていないパターンが多いです。
要件ひとつひとつに配点が振られていると考えられますので、結論(効果)だけ書くと、点数をごっそり落としてしまいます。
必ず自分で答案を作りながら「要件当てはめ→効果」のパターンを訓練していってください。
趣旨問題の対策
趣旨問題とは、純粋に法律知識・理解を問う問題です。
例えば次のような趣旨問題の過去に出題されています。
登録商標と使用商標の同一性について説明せよ。
令和元年 商標法【問題Ⅰ】(1)
https://www.jpo.go.jp/news/benrishi/shiken-mondai/document/2019ronbun-hissu/shiken_shouhyou.pdf
趣旨問題は短文であることが多いため、一行問題と呼ばれますが、
商標権の設定の登録前の金銭的請求権の(1)発生要件、(2)効力及び行使時期、(3)
令和2年 商標法【問題Ⅰ】(1)
消滅について説明せよ。
ただし、解答に際してはマドリッド協定の議定書に基づく特例は、考慮しなくてよい。
https://www.jpo.go.jp/news/benrishi/shiken-mondai/document/2020ronbun-hissu/shiken_shouhyou.pdf
のように解答項目などの細かい条件が指定され、二行以上になっていることもあります。
基本的には知識がないと趣旨問題には解答できません。
過去問、予備校の答練、模試、市販の書籍などで問題を収集してどのような出題があるのかを研究しましょう。
ただし、趣旨問題は事例問題よりも出題比率が小さいので、時間をかけ過ぎないように注意してください。
逆に事例問題への対策を済ませていて時間に余裕がある場合、趣旨問題を潰していくことで合格を確実にできます。
勉強法のまとめ
- 予備校を活用する。おすすめは資格スクエア。
- 事例問題では要件当てはめ→効果を丁寧に書く。
- 趣旨問題は出題例を研究する。ただし、時間をかけ過ぎないように注意。
私の論文試験失敗談
最後に私自身の体験談を紹介します。
1年目に短答試験には合格したものの、論文試験不合格となってしまいました。
振り返って分かった、不合格の原因3つを挙げますので、みなさんは同じ失敗をしないようにしてください。
勉強時間の配分ミス
1年目は短答試験から受験したため、論文対策を始めたのは短答が終わった後でした。
そのときには、論文試験が約2か月後。
論文試験の答案作成技術を短期間で身に着けるのは難しく、完全に準備不足のまま本試を迎えました。
一発合格を狙うのであれば、短答対策をしつつ、早めに論文対策にも着手しなければいけなかったと反省しました。
法文集に頼り過ぎた
試験中に法文集を参照できると思い、法文集に頼り過ぎていました。
その結果、法文集をめくる頻度が高くなり、時間が足りなくなってしまいました。
また、普段の勉強では四法対照(四法の条文を比較できる法文集)を使っていたため、レイアウトの異なる試験用法文集に戸惑ってしまいました。
答案フォーマットを準備しなかった
頻出パターンの答案フォーマットを準備しなかったため、大きく点数を落としてしまいました。
答案フォーマットとは、出題パターン(例えば侵害の警告を受けたパターン)に対して解答する項目(例えば侵害検討、無効審判請求、設計変更など・・)を網羅的に挙げたものです。
答案フォーマットをあらかじめ準備しておくことで、
- 項目落ちを防ぐ
- 短時間で答案構成できる
というメリットがあります。
一年目は答案フォーマットという考え方も知りませんでした。
二年目に予備校の講座で答案フォーマットを教わり、目から鱗が落ちたのをよく覚えています。